2003/10/17

Transmetaは「インターネット時代の低消費電力マイクロプロセッサ」と題したセッションを設けて、ソフトウエア部門ディレクターのMarc Fleischmann氏が講演を行った。そこでTransmetaが指摘したのは「ムーアの法則」の限界である。ムーアの法則とは、「1個のシリコンチップに載る回路の数は18〜24カ月ごとに倍化していく」という法則だ。この法則にそって、1965年には64個だったトランジスタの数は、Pentium?では280万個に達したのだ。IntelやAMDなどTransmetaのライバルたちもいつかは「ムーアの法則」の限界が来ると感じているだろう。だが、少なくとも今は製造プロセスを微細化して、「ムーアの法則」に挑んでいるのだ。一方のTransmetaは「ムーアの法則」の限界は近いという観点からプロセッサ事業を進めている。Transmetaが予測する限界点は0.07μプロセス前後であり、それほど遠い将来ではないのだ。

では、「ムーアの法則」が限界に達した場合、コンピューティングの成長はどのようになるのか。Transmetaが指摘するのは通信バンド幅である。現在は通信バンド幅の限界をCPUスピードが補っている状況だ。遅い通信速度を圧縮したり、キャッシュしたりして対応しているのだ。しかし、Ethernet、100Mbs Ethernet、GB Ethernet、InfiniBandと通信バンド幅は「ムーアの法則」を上回るペースで成長している。ワイアレスについても2.5Gと呼ばれるIS−95Bが64kbps、3GのCDMAが153kbps〜384kbps、95-HDRは2.4mbpsとさらに急速なペースで伸びている。そこで、これからは積み込めるトランジスタ数の限界を通信バンド幅が補うという現在とは逆の状況になるのだ。


CPUに積み込めるトランジスタの数が限界点に達するのはもうすぐ

ネットワークのバンド幅はムーアの法則を上回るペースで伸びている


これを車に例えてみよう。これまでは車のエンジンを向上させて、少しでも速く移動できるように対処してきた。しかし、自動車という箱に載せられるエンジンのチューンナップは限界ギリギリに到達しようとしているのだ。だが、車を快適に走らせるのはエンジンの向上だけではない。むしろ、道路事情が整備された方がより多くの人が快適にドライブできるようになる。しかも、21世紀の資源、環境、騒音問題などを考えるとパワフルなガソリン車よりもエコカーの方が選ばれる。これからの通信バンド幅の向上は道路事情の整備であり、Crusoeは21世紀のエコカーのような存在なのだ。

もう1つ、この例にCrusoeを当てはめると、ハイブリッド・カーが電気エンジンで走っている時は、ほとんど音がしないために、車じゃないモノが走っているような気がするが、CPUの世界でもこの状況は同じ。これからはファンを省いた音の少ない機器が好まれるし、ワイアレス端末も増加する。インターネット・アプライアンスのようにサービスに合わせた統合機器も数多くなる。基本的な概念は今と同じコンピュータだけど、今のコンピュータとは全然違うような製品が増えていくのだ。そこでプロセッサに求められるのが機能性、互換性、柔軟性、統合力など。この条件に合うCPUがCrusoeであると言う。

一般的にCrusoeはノートPCやウエブパッド用のCPUと見られがちだが、Transmetaにとっては、それらはCrusoeの活用方法のごく一部。CrusoeによるソリューションはVLIWエンジンを持つハードウエアが25%、そしてCMSが75%貢献するとしているので、これからはCrusoeの中でもCMSの重要性が増してくるのだろう。

もう1つ、Transmetaが指摘していたのがサーバー市場だ。同社は、1999年から2005年までインターネット・サーバーの数は約20倍に増加すると見ている。だからと言って、サーバーを収めるスペースとサーバーが消費する電力が20倍になるというのは現実的ではないという。Crusoeを利用すれば省スペース/省電力が実現できるので、今後はHigh-Density Computingの分野にも積極的に参入していきたいと抱負を語った。